欲嫌い

どうにも欲というものが嫌いだ。欲は己のために他人を不快にするものだ。黒い煙とも泥水とも似つかない得体の知れないそれは、己の頭とと他人の喉にゆっくり確実に這い寄って締め付ける。歪な自らの笑みと引きつった他人の顔が生まれ、この世で最も忌むべき時間が無為に流れる。その瞬間が嫌いだ。

欲と云っても食欲と睡眠欲は好い。その二つの欲は自分に罰が下る。腹を壊せば動けなくなる。起きる時間を間違えれば予定が狂う。尤も病院通いや遅刻癖は、迷惑をかけるということに違いは無いが、そんなもの他と比べれば守宮の噛みつきも同然である。好くないものは物欲、性欲、嫉妬、独占欲、保身、承認欲。数えればキリが無いが、すぐに頭に浮かぶはその六つだろうか。そやつらのせいで、人との間にある清いもの、誰かがそれは心と云ったか、その白色に黒を容赦なく塗りつぶしていくのだ。